虫こぶ形成メカニズムの解明

 

植物を食料とする植食性昆虫の中には、昆虫自身のシェルター兼食料となる「虫こぶ」という特殊な植物組織を植物に作らせる昆虫たちが存在します。

虫こぶ(虫癭,gall)は,昆虫が植物体に寄生して形成する給餌組織で,高度な形態制御とアミノ酸等栄養素の転流・蓄積を特徴としています.この植物組織の統合的かつ劇的な変化は植物本来の能力や植物ホルモンの働きだけでは説明できない非常に興味深い研究対象です.

 複雑な構造を持つ虫こぶは、ホスト植物には、本来、決して生じないことから、虫こぶの形成には、昆虫がなんらかの物質を植物に作用させ、植物の形態形成プログラムを操作することで形成される、いわゆる「延長された表現型」であると考えられてきました(Dawkins, 2016)。しかしながら、昆虫が、どのような物質を作用させ、虫こぶを形成するのか?その分子メカニズムついては、不明な点が多く残されていました。


虫こぶ形成に必要な遺伝子

 

 

 

 

 

 

虫こぶ形成誘導因子,CAPペプチドの発見

 

私たちは,未知の「虫こぶ誘導物質」を単離するために、虫こぶ形成期のヌルデシロアブラムシに発現上昇する遺伝子の中から、N末端に分泌シグナルを持ち、植物の遺伝子と相同性を持つ遺伝子をin silicoの解析を行いました。

その結果、酵母から、動物、植物まで広く保存されたタンパク質であるCysteine-rich secretory proteins, Antigen5, and pathogenesis-related 1 proteins (CAP)を、虫こぶ形成因子候補として同定しました。さらに,CAPのC末端付近に、高度に保存されている領域があることがわかりました。そこで、保存領域であるC末端の保存領域を含むペプチド配列(CAPペプチド)を化学合成して、モデル植物シロイヌナズナに処理したところ、シロイヌナズナの芽生えで、遺伝子発現パターンが大きく変化し,虫こぶで発現している遺伝子群が発現することを見出しました.