バイオスティミュラントとは?
作物の収量は,環境からの様々なストレスにより,それらが持つ潜在的な最大収穫量より大幅に減少してしまいます.この問題に対して,従来型の農業では,育種によるストレス耐性品種の開発,化学肥料の施肥による栄養の供給,農薬による生物ストレスの制御,人工的な環境(ハウス栽培)などによる非生物ストレスの制御を中心に収量の増加を行ってきました.しかし,新たな品種の育種には多くの時間と労力がかかることや,肥料や農薬の合成に多くの石油化学エネルギーを必要とするため,これらが原因で,既存の農業体系が大規模な環境破壊を引き起こしていることなどが,世界的な問題となっています.
そこで,近年,「植物が本来持つ,ストレス耐性・抵抗性を最大限に高めることで,作物の収量を増加させる技術」であるバイオスティミュラント(BS)によって,環境に負荷をかけず,安定的な食糧生産を行うことが期待されています.しかしながら,既存のBSは,生体抽出物など混合成分で効果が不明なものがほとんどであり,作用機序が明確で効果が明らかなBSの開発が急務の課題となっています.
CAPペプチドのバイオスティミュラントとしての利用
CAP ペプチドを処理したシロイヌナズナの網羅的遺伝子発現解析RNA-seq解析の結果、乾燥やABA応答、病害応答、高温に対する耐性遺伝子や光合成関連遺伝子などが顕著に発現上昇していることが明らかとなりました。このことから、適度な濃度のCAPペプチドを処理することで、植物の成長促進やストレス耐性の向上させることが可能であることが示唆されました。
そこで、シロイヌナズナを用いて各種環境ストレスに対する耐性が、CAPペプチド処理によって上昇するかについて調査しました。
様々な実用植物における生育促進効果を調べた結果、生育初期のトマトに低濃度のCAPペプチドを灌注処理または葉面散布すると、トマトの実の収量が30%程度増加すると同時に、トマトの実の糖度も顕著に上昇することが明らかとなりました。
他にも、柿(平核無)や南高梅、ダイズなどにCAPペプチドを処理した結果、成長促進効果があることを確認しています。
CAPペプチドのバイオスティミュラントとしての利用
植物に,CAPペプチドを,あらかじめ処理すると、成長促進作用や塩ストレスに対する耐性、高温に対する耐性、病原菌に対する耐性が顕著に増強されることが明らかとなりました。
CAPペプチドは、植物体内およびヒトにも存在する天然由来物質であることから非常に安全性が高く、極低濃度(nMオーダー)のペプチド単分子で十分な効果を発揮します。
更に天然由来ペプチド成分であるために環境残留性も低く、品質の保持やコントロールが比較的容易であるなどの特徴を持っています。